自分のペースを崩さないように。ゆっくりでもいい、一人ひとりタイミングは違うから。
今回インタビューをした近藤さんは、ヒトトコの就労移行支援を通じて就職し、半年が経ちました。
実は近藤さんが働く現場での障害者雇用は初めてのこと。
近藤さんだけでなく、職場の方にもお話を伺いました。
いろんな人のサポートがあって挑戦してみようと思えた
インタビュアー:
近藤さんは現在どういった業務をされているか教えてください。
近藤さん:
おもに清掃や事務、軽作業をしています。その他にも昼食の時間になると利用者の方の昼食の準備や配膳をお手伝いすることもあります。
インタビュアー:
様々な業務をされているようですが、入社当時からですか?
近藤さん:
実は入社以前、求人が出ていたのは『清掃』の求人でした。
職場が家から近いという理由で気になった求人だったのですが、ヒトトコの職員さんに相談したところ『清掃以外もさせてもらったほうが、自分の強みや得意なことを活かせると思うし、選択肢も広がる』と提案をしてくれて、求人応募の際に他の業務も任せてもらえないかと掛け合ってくれました。
職場の方も前向きに考えてくれて『慣れていきながら少しずつ業務の幅を広げてみよう』というお話がいただけました。
インタビュアー:
元々色々なことをすることは得意だったのですか?
近藤さん:
今まで社会人経験がなかったので自信はあまりありませんでした。
でもヒトトコでの経験や職場の方、ヒトトコの職員の方のサポートもあって挑戦してみようと思えました。
不登校・ひきこもりの経験、不安
インタビュアー:
ヒトトコに通う以前はどんな風に過ごされていましたか?
近藤さん:
自分の人生を振り返ると、しんどさを感じ始めたのは小学校の高学年からです。
当時は原因もはっきりせず、ただ朝起きて学校に行くことがしんどかったです。
朝起きることがしんどいのは実は今もなんですが、当時は中学1年生の夏前には学校に行かなくなりました。
元々花粉症がひどくて病院に行ってから遅れて通学することや、小学校から中学校になると急に人数が増えて馴染めなかったこともあり、学校に行きたくない気持ちが大きくなっていきました。
不登校になってから中学校卒業まで、『高松市教育支援センターみなみ』というところに行っていたのですが『親に連れられて行き、午前中に顔を出すだけ』といった形でした。
卒業後は通信制の高校へ進学しました。
親から『とりあえず高校卒業はしておこう』と言われたのがきっかけでした。
ただ、通信制の高校では必要最低限のことしかしておらず、学校からは様々なイベントの案内が来ていましたがほとんど無視していました。
通信制の高校を卒業した後は漠然と『働かないといけないな』とは考えていましたが、社会人経験もなく中学・高校とほぼ家にいたので、働くことについてまったく準備ができていませんでした。
その頃には不安を和らげるために定期的にクリニックへ通院していて、病院でのカウンセリングを受けていました。
ヒトトコを知ったのは母にパンフレットを見せてもらったことがきっかけです。
そのときに初めて『働くために準備ができるところがあるんだ』ということを知りました。
興味はあったものの、その後半年くらいタイミングを探っていたのですが『待っていてもタイミングが来ないな、今動かないと動けなくなるな』という気持ちで親にヒトトコの見学に行きたいと伝えました。
まずは見学をしてみて、利用についてはその後に考えようと思っていました。
家族や病院以外での他人との関わりがほとんどなかったので、初めて見学に行ったときは不安しかなかったです。
すぐに体験を始めたのですが、特に初日は入り口まで行ったものの、誰にどう声をかけて中に入ればいいのか分からず困ったことを覚えています。
思っていたより悪い状況にはならない
インタビュアー:
不安はどこかのタイミングで和らぎましたか?
近藤さん:
初日については、ヒトトコの利用者の方が声をかけてくれて、職員の方につないでいただきました。
体験から利用が始まってからも半年から1年くらいは自分にも余裕がなく、通所に慣れていく時期だったと思っています。
インタビュアー:
ヒトトコ職員から、ヒトトコ卒業後の今も仕事がお休みの日にはヒトトコに来て利用者と会話やゲームをして過ごしていると聞きました。
そのきっかけは何かありましたか?
近藤さん:
カリキュラムを通じて他人との会話に慣れていったことが大きいのですが、きっかけは共通の話題で話ができる相手が見つかったことです。
以前からの自分の趣味で県外へライブに行った後、その時の恰好でヒトトコに行ったことがあるのですが、他の利用者の方から『いつもと違うけどどうしたの?』と話しかけられて『ライブに行ったんだ』という話からその方も音楽が趣味だったことが分かり、いろいろと話すようになりました。
その時に『自分と他人とで共通の話題や知っていることがあれば話ができるんだ』ということに気づけました。
ちょうどそのころはヒトトコに通所して1年くらい経っていて、半日通所から1日通所が増えてお昼休憩や帰る前など余白の時間ができてきたことが交流のきっかけになったと思います。
インタビュアー:
それまでは少なかった『他人との交流』が増えてきた中で考え方は変わりましたか?
近藤さん:
『思ったより悪い状況にはならないな』と感じるようになりました。
それまでは『自分がなにかすると悪化してしまうのではないか』と不安に感じることが多かったのですが、他人と交流することで、自分にはなかった考えに触れることができ、よりプラスに考えられることが多くなったように感じます。
やってみたから気づけた
インタビュアー:
ヒトトコや他人に慣れていくなかで、就職が具体的になっていった時期やエピソードを教えて下さい。
近藤さん:
利用し始めて1年ちょっと経ったくらいに『就職合同説明会』があり、今の職場とは別のところですが実習をしてみないかという話をいただきました。
以前から特定の職種や業種にこだわりがあったわけではなく、家から遠いことも不安としてあったのですが、『家からの距離は自分にどれくらい影響があるか』も分かっておらず、とりあえずやってみようと思い実習をはじめました。
実習を始めてから感じたのは『仕事の内容は無理なくできるけど、やっぱり家から遠いと通うことが難しいな』ということ。
これは、就労経験がない自分が『やってみたから気付けた』ことだと思っています。
その後もいくつか実習を経て、今の職場がいいなと思い、面接をしていただきました。
インタビュアー:
今の職場に決めたきっかけはありますか?
近藤さん:
先程も言いましたが特定の職種や業種にこだわりはなく、実はひとつ前の実習先が気になって就職を考えていたのですが、タイミング的に今の職場の求人が出てきて、体調的な不安もなくなっていたわけではないので、家から近かったことが決め手の一つになりました。
インタビュアー:
(職場の方に)障害者雇用で近藤さんを採用するにあたって不安なことはありましたか?
近藤さんの職場の方:
あまり不安はありませんでした。というのも、近藤さんを採用するにあたって、事前にヒトトコの職員の方から『就労パスポート』を見せていただいていました。
なので『近藤さんがどういった人なのか、何ができるのか、逆に何が苦手なのか』は事前に分かっていましたし、実際に近藤さんとお会いして、実習をしていただく中で『もっと得意を活かしてもらえるんじゃないか』と思い、今では様々な業務をしていただいています。
彼の仕事ぶりを見た他の職員からも信頼は厚く、今では頼れるメンバーの一員として頑張ってもらっています。
困った時は必ず報告・相談をしてくれるので、安心して仕事を任せることができます。
自分のペースをくずしてはいけない
インタビュアー:
最後に、過去の自分に対して、今の自分からアドバイスはありますか?
近藤さん:
思い悩むくらいなら一度やってみてほしい、ということを伝えたいです。
短時間だけ、1回だけやってみると見えてくるものがあって「やっぱりできなかった、しんどかった」というのもやったからこそ気付けることなので。
もう一つ『自分のペースをくずしてはいけない』ということです。
自分はペースを崩してしまったから学校に行けなくなったと感じています。
ゆっくりでもいいし、一人ひとりペースは違うので大切にしてほしいと思います。
それを理解して支援してくれる人もいるよ、ということを伝えたいです。